➢CPT(Cognitive Processing Therapy:認知処理療法)
デューク大学のパトレシア・レシック(Patricia. A. Resick) らが開発した心理療法。PTSDによって処理されていない認知(スタックポイントという) を同定し,そこにアプローチする心理療法。性的虐待や戦争による帰還兵,対人トラウマなどのRCT (ランダム化比較試験) で有効性が確立されている。
参考文献として,パトレシア・レシック著,伊藤正哉,堀越勝(監修) 「トラウマへの認知処理療法:治療者のための包括手引き」創元社(電子書籍だと4800円,紙の本で5280円) が挙げられる。
➢DBT-PTSD(PTSDのための弁証法的行動療法)
弁証法的行動療法(DBT),ACT(Acceptance Commitment Therapy),PE(Prolonged Exposure)療法,Compassion Focused Therapyなどを統合したCPTSD+BPDの高いドロップアウトに対応。ドイツのハイデルベルク大学マーティン・ボーヒュース(Martin Bohus)らによって開発された。
➢NET(Narrative Exposure Therapy:ナラティブエクスポージャーセラピー)
コンスタンツ大学のマギー・シャウアー(Maggie Schauer),ビーレフェルト大学のフランク・ノイナー(Frank Neuner),コンスタンツ大学のトーマス・エルバート(Thomas Elbert)が開発した,曝露療法にナラティブセラピーを統合した療法。ISTSS(国際トラウマティック・ストレス学会)でも推奨されている。2000年代初頭に内戦,紛争による組織的暴力に巻き込まれた難民のPTSDを対象に開発された。ドロップアウト率が低いことで知られ,全人生史の自伝的記憶の整理とその尊厳の回復に主眼を置いている。
参考文献は,シャウアー,ノイナー,エルバートら著,森茂起(翻訳),(2023).「ナラティブエクスポージャーセラピー[第2版]-人生史を語るトラウマ治療」金剛出版(電子書籍は3366円,紙の本は3740円)
➢PE(Prolonged Exposure)療法
日本語訳は「持続エクスポージャー療法」。ペンシルベニア大学のエドナ・フォア(Edna. B. Foa) が開発した。英国の国立医療技術評価機構 (NICE)でPTSDに対して推奨されている心理療法。様々なRCT(ランダム化比較試験) で有効性が確立されている。標準的な治療マニュアルでは,CAPS(PTSD症状を評価するアセスメント) ,SUD (自覚的障害単位)などを用いたアセスメントを行い,またオーバーエンゲージメント,アンダーエンゲージメントに留意しながら段階的な曝露を行う必要があり,その限界と適用やアドヒアランスなどに十分な注意を払う必要がある。
参考文献は,エドナ・フォア (Edna. B. Foa) ら著,小西聖子,金吉晴(監修)「PTSDの持続エクスポージャー療法ワークブック トラウマ体験からあなたの人生を取り戻すために」星和書店(単行本で1430円) やエドナ・フォア (Edna. B. Foa) ら著,金吉晴ら(翻訳)「PTSDの持続エクスポージャー療法―トラウマ体験の情動処理のために」星和書店(単行本で3740円)
➢STAIR/NST(Skills Training in Affective and Interpersonal Regulation/Narrative Story Telling)(ステアー・ナラティブセラピー)
National Center for PTSD(国立PTSDセンター)のメルリーヌ・クロイトル(Marylene Cloitre)が開発した,児童期虐待を経験した成人や複雑性PTSDへの心理療法。認知行動療法,特にPE(Prolonged Exposure)療法,DBT(Dialectic Behavioral Therapy:弁証法的行動療法),スキーマ療法などの要素が統合されている。NCNP(国立精神・神経医療研究センター)を中心に研修を行っている。
参考文献として,Marylene Cloitreら著(2020).「Treating Survivors of Childhood Abuse and Interpersonal Trauma: STAIR Narrative Therapy」Guilford Press(電子書籍は約6000円,ペーパーパックは約5500円)やMarylene Cloitreら著(2020).「児童期虐待を生き延びた人々の治療 -中断された人生のための精神療法」星和書店(単行本で3960円)がある。
➢TF-CBT(Trauma-Focused Cognitive Behavioral Therapy:トラウマフォーカスト認知行動療法)
児童・青少年の心的外傷性ストレスセンターのジュディス,A,コーエン(Judith A. Cohen),アンソニー,P,マナリソ(Anthony P. Mannarino),ローワン大学のエスター・デブリンジャー(Esther Deblinger)によって開発された心理療法。特に欧米では,子どものPTSDに対する第一選択の心理療法として推奨される。TF-CBTは「A-PRACTICE」と呼ばれる,それぞれの頭文字をとった治療的要素から構成される。AはAssessment and case conceptualization(アセスメントとケースの概念化),PはPsychoeducation about child trauma and trauma reminders(子どものトラウマとトラウマリマインダーについての心理教育+Parenting component including parenting skills(ペアレンティングスキルを含む養育に関する要素),RはRelaxation skills individualized child and parent(子どもと養育者それぞれのリラクセーションスキル),AはAffective expression and modulation skills tailored to youth and family(子どもと家族に合わせた感情表出と調整のスキル) ,CはCognitive coping:connecting thoughts, feelings and behaviors(認知コーピング:感情・思考・行動のつながり),TはTrauma narration and processing(トラウマナレーションとプロセシング),IはIn vivo mastery of trauma reminders(実生活内でのトラウマリマインダーの統制),CはConjoint child-parent sessions(親子合同セッション),EはEnhancing future safety and development (将来の安全と発達の強化)である。
参考文献として,亀岡智美,飛鳥井望(著)「子どものトラウマとPTSDの治療 エビデンスとさまざまな現場における実践」誠信書房(電子書籍は2475円,紙の本は2750円)
➢TSプロトコール
杉山登志郎によって開発された,特にフラッシュバックの軽減,治療に焦点化した簡易トラウマ処理技法。向精神薬の極少量処方および神田橋処方に伴って,パルサーによる刺激での処理を試みる。複雑性PTSDや発達性トラウマ,解離を伴うPTSDなどに効果があると想定されている。より多くの効果研究が待ち望まれる(RCT研究は杉山の1例に留まっている)。
参考文献としては,杉山登志郎(著)(2021).「テキストブックTSプロトコール 子ども虐待と複雑性PTSDへの簡易処理技法」日本評論社(電子書籍,紙の本とも約2200円),杉山登志郎(著)(2023).「TSプロトコールの臨床 解離性同一性障害,発達障害,小トラウマ症例への治療」日本評論社(電子書籍,紙の本ともに約2200円)