移行対象とは英国の精神分析家ウィニコットにより提唱された概念で幼児が肌身離さず持っている毛布やぬいぐるみなどの「無生物の所有物」を指す。養育者からの分離,分離不安(separation anxiety)に対する防衛手段としての効果を持ち,子ども自身によって創造される。
心理的特徴:
移行対象は,不安の軽減やその対処,入眠の手助け,子ども自身の感情調整の支えになる。移行対象は子どもが主観的に作り出すものであるが,ぬいぐるみ等そのものは客観的に存在しており大きさ,硬さなどに違いがあるため,物理的特徴によってその扱い方は制限される。移行対象は子どもの思い通りになる主観的世界と思い通りにならない客観的世界との橋渡しとなる。この移行対象の発現は,母親とのほどよい関係(good enough relationship)を基盤としている。母親との不適切な関係は移行対象の機能的性格を失わせる。
理論的背景:
ウィニコットは錯覚と脱錯覚という用語で移行対象を説明した。例えば,母親は授乳の際,赤ん坊が乳を飲みたいという欲求を直感的に察知し,赤ん坊の口に乳房をあてがう。その結果,赤ん坊は乳房を自分の一部であると錯覚(illusion)する。移行対象はこの錯覚から抜け出す事,つまり脱錯覚(disillusion)の過程として代理的な満足対象として登場する。
アタッチメントの発達過程において重要なこと:
ボウルビィによると,発達において近接関係を維持するということは,物理的距離を維持するという意味ではない。それは,関主観性を基盤とした相互信頼関係の構築,危急の際に対象から助けられるという期待,すなわち基本的信頼感を絶えず抱いていることを意味する。
アタッチメントとは,行動レベルの近接(例:母親との物理的接触)から表象レベルの近接(例:移行対象との接触)へと発達的に移行する事ともいえる。